VIEW²
Yuta Mihira
描くことで世界の“見え方”が変わっていく。
三平悠太は、その原点の感覚をもう一度確かめるように、これまで培ってきた自身のスタイルを再解釈している。
「VIEW²」は、線と色を重ねながら、自分の“視点”をあらためて見つめ直す試みだ。
今回の個展「VIEW²」で描かれる世界や、タイトルに込めた思い、そして制作に対する考え方について、話を聞いた。
Drawing has the power to shift the way we see the world.
For Yuta Mihira, this exhibition is an opportunity to revisit that original sensation and reinterpret the visual language he has cultivated over the years.
“VIEW²” is an exploration of his own perspective—his view—through the layering of lines and color.
In this interview, We talk to Mihira about the world depicted in “VIEW²,” the meaning behind its title, and his approach to making.


Yuta Mihira / 三平 悠太
アーティスト / イラストレーター / グラフィックデザイナー
1989年千葉県船橋市生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒。
2021年に東京から熱海へ移住。
企業広告や書籍、アパレルなど多岐にわたるアートワークを手がけている。
これまでに、多様な企業へ作品を提供する他、フジテレビドラマ「続・続・最後から二番目の恋」オープニング・エンディングアニメーションを担当。
自身の「視点」をテーマとした創作を行っている。https://www.instagram.com/yutamihira
「VIEW」について
─ 展示タイトルの「VIEW²」とありますが、そもそもVIEWにはどういう意味が込められているんでしょうか。
ちょうど10年前の2015年、青山通り沿いで当時僕が勤めてたシェアオフィスで個展をやらせてもらったんです。その時のタイトルがVIEW(眺め)だったんですよ。今回は、節目の個展だと思ったので初個展のタイトルをもう一回使いたいなと思ってVIEWをつけました。
─ 10年前のVIEWはどんな展示でしたか。
当時は、まだ絵の仕事も取れてなかった時代で。展示に来てくれたのはほとんど知り合いだけでしたが、初めての個展だったこともあって、友人や先輩がたくさん足を運んでくれました。
─ ちなみにその時の個展に、VIEWにした経緯は何かあったんですか?
基本的に、結構前の段階から、「自分はこういうふうに世界を見てます」というのを共有したいという思いがあります。10代の時に、いろいろ映画を見たり、本を読んだりしてたんですけど、その時の感動って共有して初めてより形になるというか。喜びとかもそうですけど、自分が作品を作る理由は、そこなんだなって思いました。自分が綺麗だなと思ったりとか、この景色素敵だなとか、それを形にして、人に共有するための作業だなと思っていたので、VIEWというタイトルで10年前に個展をやったんです。
─ 景色を写すだけではなく、感動の共有も目的なんですね。
そうですね。そこをずっと考えていますし、変わらないです。表現手法は変わっても、自分の感動を共有したいというのは変わらないです。

─ クライアントの仕事もやられていると思うんですけど、作品作りと何か違いがあったりしますか?
自分の中では、制作するときの気持ちはそこまでは変わらないです。けど、商業的なイラストレーションやグラフィックデザインと、自分の好きなように描く事を、自分の中では分けています。
例えば、イラストレーションのクライアントワークのときは、ある程度の枠組みや、お題が出されるじゃないですか。そういうのを解きほぐしていくというか。自分は柔軟にできるタイプではあるので、基本的には、こういうものが求められているだろうなというのを予想して、向こうが持っている答えに近づけるようにしています。
昔は、求められたら細かく描写することもやってたんですけど、でも最近は、自分のスタイルが確立し始めていて、ちょっとずつ自分のやりたいことと、向こうが求めるものが絞れるようになってきて、ここ1、2年ぐらいでようやくそれが掴めてきました。
─ ステートメントにある、“描くことで見え方が少しずつ変わっていく感覚”っていうのは、一体どういった感覚なのでしょうか?
このステートメントは、浪人時代のことを思い返して書きました。自分の感覚でデッサンができるようになってきたと思い始めたのが浪人生の時だったんです。
下手なうちは描いても見え方はあまり変わらないけれど、上達してくると「影の中にもこんなにたくさんの階調があるんだ」と気づけるようになりました。今まで黒と思ってた影って意外と青だったり、色んなグレーがあったり、それって多分、僕の場合はデッサンする前って知らなかったことで。その経験を経てモノを見ると、たとえば「光が当たっているカーテンのこの淡い色が綺麗だな」とか、初めてその時感じて。自分が描く作業を経験することで、モノを見る対象の感じ取り方が変わるっていうのが、その当時はすごいびっくりしました。それをまた感じたいなと思って、今回の展示では画材を変えました。だから見え方が変わっていくっていうのはそういうところですね。自分がお仕事で絵を描けるようになってから、効率化をどんどんしていったんですよね。いかに効率よくするか。iPadとかも登場したりとか、どんどん無駄を省いていって。
でも、その過程って発見とかってそこまでないと思う。やっぱり作業になっちゃうじゃないですか。でもそれは、生きるためには必要なことだし、全然悪いこととも思わない。むしろ僕は、そういうの結構いいとは思うんです。だから、効率化していく中でも、昔ってもっと非効率だからこそいろんな発見があったことを思い出して、それをもう1回味わいたいなという思いがありました。
─ 緻密と単純化を繰り返す中で、モチーフの抽出の仕方はどのようにコントロールされているんですか?
瞬間瞬間でジャッジしているんですけど、基準が自分の中にはめっちゃあるんですよ。デフォルメの仕方も、本当にきっちり書き切ることが完成だとしても、もっと要素を減らしてもこの形を感じる。同じものを見た人が脳内補完してくれるような。その間を攻めている感じです。
─ 要素を引いている感じなんですね。
そうですね、引いてます。彫刻でいうと、大きな石を削って少しずつ形が見えてくる“途中の段階”みたいなイメージです。作り込む前の大まかな形を自分は拾っていて、そこにグラフィックデザインの経験がすごく役立っています。
Illustratorの曲線って、一見すごく単純で無機質なんですけど、デッサンをやってきた上で使うと、実はデッサンと似た感覚で形を判断できるんです。
だから自分の中では、“リアルな形”と“シンプルな図形”のちょうど間を狙うような感覚なんですよね。
みんなの頭の中に「なんとなく共通してイメージしている形」ってあると思うんですが、作品ではその“共通イメージ”をこちらで少し補ってあげる。そして、見る人自身にもその“抜けている部分”を補完してほしいと思っています。
─ あまり顔のパーツを描いていないですが、不思議と色々な表情に見える気がします。笑顔だったり、リラックスした雰囲気だったり。それも多分自分の脳内で補完してるんですね。
表情が見えたりしてくるっていうのは、言ってもらえるとめっちゃ嬉しくて。僕を知らないで、絵の見え方が全然変わるっていうのとかは面白いですね。僕はそれが嬉しくて。鑑賞した人自身が補完して見ると、なんかより濃い体験になるなと思ってて。 それが共感に繋がるのかなと思ってます。だから表情をなくすのも、めっちゃ勇気のいることだったんです。前は描いてたんで。やっぱ絵描きって、目をなくすとある意味逃げっちゃ逃げって僕は思っているので。でもそこが逃げにならないように、ちゃんと自分の中では意味を持って表情を削ってます。
─ 10年前は描かれてたんですか?
もう全然描いてました。今も仕事で求められれば、必要なら描きます。自分の中で”ポップな印象派”みたいな、そういう認識ですね。
─ 三平さんのタイポグラフィーも印象的で、ちょっとストリートな雰囲気を感じるんですけど、あれも10年前とかからやってらっしゃるんですか?
文字は10年前から書いてたんですけど、同じような柔らかい文字でも、昔はもう少しかわいい感じで書いてました。
その時は、ストリート感を意識していたわけではなかったと思うんですよ。でもなぜストリートっぽくなったかというと、書き慣れたんですよ、文字を。日本語を書くと字が汚いんですけど、英語を書くときはすごいかっこよく書けるんです。
昔はYuta Mihiraとかも、めっちゃ丁寧に書いてたけど、本当に書き慣れてくると殴り書きみたいなのができるようになって。それで多分、結果的にストリート感が出てる。だから、あえてストリートっぽくしたいなというわけじゃなくて、結果的にストリートっぽい文字になってるんです。ストリートっぽさって多分勢いなんですよ。書く勢い。スプレーで人に見つからないように描くから、急いで描くじゃないですか。それと多分通ずることがあって、僕も描き慣れてササッと描けるようになったから、結果的にそれっぽく見えてる。
─ 意図して作ったわけではなく自然にそうなったと知って驚きました。てっきり狙いがあるのかと思っていましたが、むしろその自然さが心地よく、全体のバランスがとても良いと感じました。
字詰めとかも、普通パソコンでカーニングするけど、実は書きながらめっちゃカーニング考えてて、それもなんか即座にできるようになって。だからAの横棒をちょっとはみ出させたりするのは、あれは完全にカーニングが目的ではみ出させています。例えば、隣にSとかがあったら巻いて見えるから、Aの横棒を伸ばして、とか。
─ グラフィックデザイナーの経験を生かしながら制作されているんですね。
めちゃくちゃ生きてると思います。気になってしょうがないんですよ。やっぱり広告系のデザインを経験してるから。毎日カチカチカーニングやってた日々があるんで。それは手書きの文字でもやっぱ気になっちゃうから、書きながら字詰めをちゃんと調整してる感覚があります。

─ グラフィックデザイナーの経歴はどのようにしてスタートされたんですか?
予備校に通っていた当時、受験科に分かれる時に油絵の方に行くのか日本画に行くのか、デザイン系に行くのかという話になって、別にその時は油絵に行く可能性もあったんですけど、CDジャケットのデザインしてみたかったんですよ。先生にその話をしたら、じゃあグラフィックがいいんじゃない、みたいなぐらいのきっかけで。それで大学もグラフィック系の科に進んだので、自然とお仕事もグラフィックデザインをやるようになりました。
─ 当時から、デザインのことも同時並行しながら絵を描いてたんですか?
同時並行でやってました。でも、その頃はまだ仕事にはなってなかったですね。ほんと“好きで続けてた”というか、描き続けるしかないみたいな感じでした。小さい頃から暇さえあればずっと絵を描いてたので、絵で食べたいっていう気持ちはずっとありました。
ただ、結果的にデザインも仕事になっていったので、今は「絵だけで食べたい」とかは特に思ってなくて。デザインも面白いし、どっちも大事にしてます。でも、いちばんの軸はやっぱり“絵”ですね。
─ あと、色使いも気になりました。それこそ10年の間で変化していったことはありますか?
色遣いは、自分の中では10代の頃から変わってなくて、感覚は当時に確立された感がありました。浪人時代に色を褒められて、色彩感覚がお前の武器だみたいなことを(先生に)めっちゃ言われてたから、すごい意識するようになりました。そこから色選びをこだわるようになりました。原色よりも、淡い色が好きだったんですよね。それは多分、デッサンで影が綺麗だなって思ったところから始まってるんですけど。壁の色とかって、影っちゃ影じゃないですか。影の色を絵に置き換えたら、ただの赤、青、黄色じゃなくて、ちょっと淡い赤とか、そういう風になるだろうなっていう、脳内で置き換えている時に淡い色を選びがちですね。
でも、熱海に移住してから、色がどんどんハッピーな色合いに変わりました。環境で変化するタイプなので、東京にいた頃より自然と明るい色を選ぶようになりました。
─ 三平さんは、特定のカラーパレットに固定するというより、いろんな色の使い方をされている印象ですよね。
確かに自分のカラーパレットって意外と決めてないです。あえてやってるわけじゃないですけど、その時々で、この色相の中のパレットはこうだよね、というイメージです。
今回は、いつもより淡い色で進めると少しダークに寄りそうだなと思っていて。粒子が混ざるとき、鮮やかな色の方が効果が大きいんですよね。なので、実際に描きながら「ここはもっと鮮やかな方がいいな」と感覚的に色を選んでいきました。
“絶対ビビッドでいくぞ” と決めていたわけじゃなくて、あくまでその時の感覚で調整していった感じです。
─ エアスプレーと缶のスプレーと両方使ってますよね。それはどう使い分けてるんですか?
本当に細かいところを描く時は、スプレーだとどうしてもやりづらい部分があったりして。例えばピントがぼやけた中で、ここのピントを合わせたいなって時にエアブラシで細かく描く。ちょっとテクスチャー感が違うんで、やっぱスプレーはより粒子が残るけど、エアブラシは結構グラデーションが綺麗に作れるから、それを使い分けしたりとか。でも、めっちゃむずかしかった。今回初めてエアブラシを購入しました。でもめっちゃ楽しいですね。やっぱ不慣れな画材って楽しいですね。

─ 結構思い切った舵の取り方だったんですね。
土屋さん(K ART GALLERY ディレクター)と、前回の個展の時に飲みながら話してて、彼が次のステップを試しませんか?みたいに言ってくれました。その助言もありつつ、僕もずっと思ってたことだったんですよ。仕事としては、この時間内で仕上げるみたいなことが大事じゃないですか。でも、そこでできてなかった部分を今回やってみました。時代的にもテクスチャー感って求められてるなっていうのもあったし、まっさらよりは、今ってテクスチャー感、わかんないですけど、SNSとか見てるとそういう絵が増えてるなっていうのは思います。もしかしてこれ、時代が求めてるのかなと。AIが出てきたからか、その逆をやっぱり欲しがるんだなっていうのが面白いですよね。リアルの体験じゃないけど、この人がこういうプロセスを踏んだみたいな、そこが意外と価値になるというか。数年前ってそこまでそこの部分って考えていなくて。もちろん考えてはいたけど、今AIが出てきて過渡期みたいになってくると、結局もともとあったアナログがより評価されるっていうのが最近はめっちゃ考えるようになったし、結局そこに来てくれる人との繋がりもリアルじゃないですか。やっぱりリアルを求めるんだなって。
─ 三平さんの作品には海辺のモチーフがよく出てきますが、海って三平さんにとってどんな存在なんですか?
海って癒しじゃなくて、僕は結構ざわつくんですよ。山は調和とかそっちの印象があって。山は山でめっちゃ好きなんですけど、キャンプとかボーッとなれるし。海に行った時の自分のテンションの上がり方というか、海を見るとザワつきます。なんかソワソワします。
─ その“ざわつき”って、海の怖さとも関係しているんでしょうか?
あると思います。僕の祖母が新潟で、子どもの頃に叔父に初めて海に入れてもらった時の恐怖が今も残ってるんです。
熱海に移住してからは、義理の父がサーフィンをしていて、一緒に海に入ったりもしたんですけど、内心めちゃくちゃ怖い。でも、怖いのに好きなんです。海を見るとやっぱりざわつく。ずっとざわついてる存在ですね。
─ でも、三平さんの作品には“海そのもの”はあまり直接的に描かれていない印象があります。
そうですね。僕は自分が海の中に入るわけじゃないので、海は“引きで見る景色”なんです。海を眺めているといろいろ考えられるから、考えるための対象として好きなんですよ。
“考えたい時に見るもの”という感覚があって、それでよくモチーフにしているというのもあります。
でも、昔はヤシの木ってちょっと洒落てんなぐらいの気持ちでもあったんですよ。でも今は、まじで町にヤシが生えてるからよく見上げたり。今回のでかい絵なんかはそうですけど、見守ってる感じがするんですよ。ヤシってどっしり構えてて。それがより好きになった理由ですね。毎日見てるとそういうのを感じられる。

─ 次の10年、20年はどんなビジョンをお持ちなんでしょうか。
多分、来年あたりにちょっと大きいアトリエを借りられそうなんですよ。しかも海が見える場所で。建物自体はめちゃくちゃボロいんですけど、友達から「アトリエにしていいよ」って言ってもらっていて。そういう、海とか熱海とかの環境がこれからの作風にも影響してくるだろうなとは思っています。
でもやっぱり、もともと憧れてたアーティスト達みたいに、自分のアートのスタイルがお仕事になるっていう、そこを自分は一番目指しています。今も分けてるつもりはないんですけど、どんどん自分の作風として一本化されて仕事が来るようになればいいなって思っていて。それは何十年かかってもやっていけたらいいかな。
別に「これをやるぞ」と意図的に仕掛けるわけじゃなくて、とにかく作り続けた結果、自然とそこに仕事が来るようなアーティストになりたいんです。
今ってアート、イラスト、グラフィックって細かくジャンル分けされてますけど、最終的にはそれら全部が“ひとつのジャンル=三平悠太”になればいい、みたいな感覚ですね。
最近、それが少しずつ見えてきた気がしていて。制作環境や暮らし方が変わることで、さらに良い方向にいくんじゃないかな、って思っています。
─ ジャンルごとのお仕事の依頼ではなく、”三平 悠太”の仕事をお願いしたいというのが理想なんですね。
そうですね。でもそれってやっぱり、人としてももっと成長したいし、そうなるために、作品作りだけじゃなくて、「やっぱり三平 悠太さんに依頼したいよね」みたいな人物になりたいですね。
義理の父が亡くなる前に挨拶に行く機会があったんですけど、150人くらいの行列ができていたんです。最後にそういった生き様を見せつけられて。僕はこうには全然なれてないと思って。
だから今後10年20年でそういう人になるために、いろいろちゃんとしていかなきゃな、みたいなところがあります。そこは課題かもしれないですね。やっぱ自分がまだまだ未熟な部分はそこだから、作品作りも頑張るし、人として磨いていきたいって思います。
─ 本日はありがとうございました。
「VIEW²」で描かれた作品には、過去の視点と今の視点が重なり、三平さん自身の“見え方”があらためて立ち上がってくるように感じました。
変化し続ける日々の中で、そのまなざしがこれからどんなふうに広がっていくのか。また10年後、20年後にどんな“VIEW”が見えているのか楽しみです。
Interviewer:
Asuka Watanabe
https://www.instagram.com/asuka_afo/
Atsuya Nagata
https://www.instagram.com/asuka_afo/

VIEW² / Yuta Mihira 個展
2025.11.14 Fri – 12.14 Sun
-Artist Statement-
ふと、あの頃を思い出す。
描くことで、何かの“見え方”が少しずつ変わっていく感覚。
もう一度あの発見に満ちた日々の感覚を思い出したくなった。
また無作為に描くことで、
十数年かけて形づくってきた自分のスタイルを、
あらためて自分自身の目で再解釈しようと思う。
この展示は、
これからの10年、20年に向かう再出発点となる。
【開催日時】11月14日(金)- 12月14日(日)
【開館時間】12:00-18:00 (月曜、火曜休館)
【会場】K Art Gallery
*12月14日(日)は16時まで
https://k-art-tokyo.com/exhibition/view/