点検/保守/バランス
門倉太久斗
「点検」「保守」「バランス」という三つの言葉は、歴史や制度を踏まえながら、いまの立場をどのように考えるかという問いを含んでいる。
デザインの現場から始まった制作は、やがて社会や他者との関係にも目を向けるようになった。
本展をきっかけに、その現在地をうかがった。
The three words — Inspection, Maintenance, and Balance — suggest a question: how do we consider our position today while acknowledging history and social systems?
What began in the field of design has gradually expanded to engage with society and our relationships with others.
On the occasion of this exhibition, we spoke with Kadokura about where his thinking stands now.


Takuto Kadokura / 門倉太久斗(22世紀ジェダイ)
門倉太久斗は埼玉県生まれ、武蔵野美術大学造形学部空間デザイン科ファッション専攻卒業。コムデギャルソンにパタンナーとして従事しながら、愛するアニメ、プリキュアをモチーフとしたネックレスを制作、「22世紀ジェダイ」としてSNSで発表し注目を集める。独立後、「門倉太久斗」名義で発表する絵画作品では、花をモチーフに男性性やファッション、装飾をテーマに表現を追求。独自の形状をした植物や人物などをモチーフに、絶妙な構図と色の組み合わせで画面いっぱいに描き、中毒的な魅力をもって鑑賞者を引きつける。また他の代表作として、自宅の掲示板に作品を展示した「掲示板ドローイング・シリーズ」が挙げられる。
─門倉さんのこれまでの経歴について伺いたいのですが、展示ごとにモチーフや表現が変わっている印象があります。ご自身ではどのように意識されていますか?
そうですね。できるだけ毎回違うことをやろうとは意識しています。アパレルに長くいたこともあるからか、「毎シーズン違うものを出す」という感覚が身についていて、毎回新しいテーマを出してお客さんに喜んでもらえるようにしたいなと思っています。元々ギャルソンで服の柄を描く仕事をちょっとやらせてもらっていたので、それが転じて今の絵になっています。なので、当初は画家になろうとは全く思ってなかったです。
─ 絵を描くことと並行してネックレスなどの制作もやられてますよね。
そうですね。本当は平面よりも立体の方が得意なんですよ。プリキュアのネックレスも制作していて、作風は全然違うんですがそういったシリーズもあります。
─ 門倉太久斗さんと22世紀ジェダイさん、二つの名義がありますが、制作内容によって使い分けているのでしょうか?
使い分けはないですね。「22世紀ジェダイ」という名前は、単にTwitter(現X)のアカウントの名前だったんですよね。当時は作家になろうとは思っていなくて。プリキュアのネックレスがTwitter上でバズったことをきっかけに、1回これを展示してみようという話になりました。ただ、その時はまだ会社員だったので本名を出せなくて、アカウント名をそのまま作家名として使いました。会社を辞めたタイミングで本名でやろうと思ったんですけど、「22世紀ジェダイ」の名前がある程度浸透しちゃっていて。
「門倉太久斗」っていうと誰?ってなることがあったので、両方の名前を使っている状態ですね。なので、特に意味のない名前なんですよ。ネックレスなどの作品を作るときはジェダイとしてやっていたり、一応使い分けがなんとなくありますが、でももう曖昧になっています。

─現在の活動の中心は、絵画作品になるのでしょうか?
僕の中で主軸はプリキュアなのですが、著作権の関係で販売ができないので、どうしてもお金を稼ぐっていうことになると絵になってしまう。絵で稼いだお金でプリキュアを作るぞって思っています。
─ そうだったんですね。元々ファッション業界に行きたい思いがあったんですか?
そうですね。大学に入ってから真剣にファッションをやろうと思い始めました。武蔵野美術大学の空間演出デザイン科(以下:空デ)の中のファッション専攻に行きました。最初は多摩美術大学のプロダクトに入りたかったんですよ。でも、空デにしか入れなくて。学校に行ったら自分はその学科に向いていることに気が付いて、そこからファッションをやろうってなりました。
─ 画家として絵を描き始めたのは、どんなきっかけだったんですか?
会社に入ってから、あまりにもデザイン以外の業務ができなくて。工場に何か発注することとか。その業務はやらなくていいよとなったんです。そしたらすごく暇になっちゃったんですよね。その暇になった時間で、生地の柄を描いてみる?って言われて描いてみたら、結構向いていたんです。僕はデッサンとか下手だったので、すごいコンプレックスだと思っていたんですけど。
ただ、川久保玲さん(ファッションデザイナー/COMME des GARÇONSの創設者)が絵を気に入ってくれた事が自信になって、それで沢山描き始めました。それから、会社で描いたけどボツになったものとか、結局出さなかった作品を貯めていたんです。
それである日、家のアパートに掲示板ができていて、何にも貼られてなかったのでここにドローイングを貼っておこうと思って毎日日替わりで貼っていたんですね。その掲示板に勝手に貼っていたら、それが結構人気というか、みんなが面白がってくれました。たぶん建物内の人は不気味がってたと思いますが(笑)。
家を引っ越しする時に、記念に展示をやろうと思って、自分が住んでた部屋でドローイングを並べたというのが初めての自身の展示となりました。それをきっかけに、いろんな展示に誘われたり、呼ばれるようになりました。
─ その自宅での展示は、いつ頃のことだったのでしょうか?
2020年とかだったかな。だから、覚悟を持って画家になったというよりかは、成り行きでなっちゃいましたね。

引越しの際に開催した展示の様子
─ 成り行きで画家になったとのことですが、現在はかなり明確なテーマを掲げて制作されている印象があります。今回の展示タイトル「点検/保守/バランス」ですが、この並び順にも意味があるのでしょうか?
順番はすごく考えていました。保守っていう言葉が強いから、右翼的なことに捉えられたら嫌だなと思ったんですけど。いろんな並び方を検討した結果、 今のタイトルの響きが一番良かったです。椹木野衣さん(日本の美術評論家)の有名な本で「日本・現代・美術」があるんですが、そのパロディーになっています。日本の美術批評の金字塔的な本ですね。
そうした文脈も踏まえつつ、今回は自分なりに今の状況をどう捉えるかを考えていました。
─ タイトルにも通じると思うのですが、今回の展示全体にはどのような意図や問題意識が込められているのでしょうか?
年齢を重ねてくると、前ほど自己表現みたいな感覚がなくなってきていて。自己表現というよりはジャーナリズムに近い感覚が出てきています。今の状況を自分なりに解釈して表す必要があるかなと。
今、急激にいろんなことが変わろうとしてますよね。変わってもいいと思うんですけど、その変化を考えるうえで、過去がどうだったのかを知る必要があると思っています。
僕は歴史が好きなんですが、特に美術をやる人は20世紀の歴史を知る必要があるなと考えています。なぜ今こういう状態になっているのか、なんで自分がこういう作品を作っているのか、その文脈を踏まえたうえで制作するべきだなと感じています。
僕なりの解釈では、それを知ると、この世界がある種の絶妙なバランスの上で保たれているように見えてくる。 そのバランスを維持したり、調整したりすることが大事なんじゃないかと思っていて、今回はそういったタイトルにしました。
「戦争したくない」と直接的に書いても届きにくい気がして、もう少し間接的なかたちで表現しようと考えました。
そう考えるようになった背景には、政治状況もあって。高市さんが首相になった頃に、今の政治状況に対して、もう少し自分なりの立場を示す必要があるのではないかと感じて。 直接的な主張は文章でできるけれど、作品でやるなら別のアプローチになると思ったんです。
でも、当初の展示のテーマはインテリアだったんですけどね。もうちょっと気楽なことを考えていました。

─ その絶妙なバランスで保たれている平和というのは、どのような要素によって成り立っていると感じていますか?
社会制度っていろんな人の努力によって作られているんですよね。国民皆保険とかって本当に作るのが大変だったと思う。そういう今素晴らしい制度っていうのが、どういう歴史の上に成り立っているのか、どういう失敗の上、こういうのを作ろうとなったかという議論を、一回知った方がいいなと思って。
今、社会保障についてやめようとか変えようという議論が盛んですが、まずは前提として、どうして今のかたちになっているのかを知ることが大事なんじゃないかと思っていて。
痛みに耐えるっていうのは、やっぱりいろんな人の痛みの上に今が成り立っているということでもあるんですよね。障害のある方々など、不遇な状況に置かれてきた人たちの歴史も含めて、今の制度は成り立っている。 だから、慎重に考えるべきなんじゃないかと僕は思っています。
やっぱり平和を維持するのは、多分すごく退屈なことなんですよね。でもなんか、それに耐えないといけないんじゃないかなって、最近は思っています。
二十世紀の歴史が大好きでよく調べているんですが、名もない多くの人たちが地道な努力を積み重ねてきた結果、今の状態がある。 そういう意味で、「退屈に耐える」ということを大事にしたいと思っています。。
─ ステートメントに道具という言葉が出てきますが、何か物質的なモノとしてなのか、それとも考え方や態度を表しているのですか?
まず、僕は道具を大事にするのが好きで、クラフト的なものへのリスペクトがあります。ファッションってかなり工芸的なんですよね。服の形の進化に思いを馳せると、すごく感動するんですよ。ここにダーツが入って体にピシッと沿うようになっているとか、いろんな人の研究でこの形になっている。やっぱり昔から大きく形が変わっていない道具って、本当に美しいなと思います。なぜその形になっているのか、その背景にある工夫や歴史に思いを馳せることが大事だと感じています。

─ 服ってひとつひとつのデザインに機能があったりしますよね。このポケットは最初こういう機能が重要だったから今もデザインとして残っていたりと、そこには文脈や歴史がある。
モチーフが語るポイント、その選び方に意図はありますか?
フルーツは鉄板でいつも描いています。僕は男性性について考える個展とか展示をよくやっているんですが、男の人ってフルーツを剥かないなと思っていて。どこかで「女性が剥いて出してくれるもの」と思い込んでいる節があるのではないかと。
男の人がこれからどうしていけばいいかを考えたときの一つの解として、男の人たちも自分でフルーツを剥いてみたほうがいいんじゃないかなと思っています。そういう理由で、いつも山盛りのフルーツを描いてますね。
─ 確かに女性的なイメージがありますね。
そうなんですよね。男性があんまりやっていないことってよくあって、例えばお茶を入れるとか、子供のヘアアレンジとか。そういうのはまずやってみるべきかなって。前々回の個展のテーマはそういう話だったので、その時から鉄板でフルーツを描いています。
─ 男友達で集まってフルーツを剥いて食べるって、いわゆるイメージにはないですけど、最近はまた変わってきてそうですよね。
あれは人にシェアするという文脈で描いてますね。みんなで分け合ったり、コミュニケーションの場にあるものとして考えています。
─ 猫も描かれていると思いますが、それはどういった意図がありますか?
猫がいる町っていいなと思っているんです。野良猫がいる街って、余剰なものや異物を抱えておける余裕がある気がしていて。異物としての猫みたいな存在が、僕は結構気になっています。猫が存在できる街の余裕みたいなものが、少しずつなくなっているような気がしていて。もちろん街に課題があるのはわかるんですけど、東京では確実に減っていますよね。

─ 社会や都市の余白についてもお話がありましたが、もう一つ、門倉さんの制作を語る上で欠かせないモチーフがプリキュアだと思います。プリキュアはどういうきっかけで見始めたんですか?
たまたま仕事で見なきゃいけないことがあって、それからすごいハマりました。20代後半ぐらいのときですね。それからネックレスシリーズを作りました。
─ プリキュアのどこに魅力を感じたのですか?
あれって女児向け、子供向けなので、普通のことしか言わないですよね。ありがとうって言おうとか、相手の気持ちになって考えましょうとかしか言わないんですけど。そういうのを当時は信じていなかったので。コミュニケーションが苦手な人は、みんなプリキュアを見た方がいいと思いますよ。基本的なコミュニケーションの仕方を学べるというか、丁寧に丁寧に台本が描かれているので、プリキュアを見るといいです。
変身して戦う、いわゆる魔法少女ものですが、ファッション的には、着替えて力を得るっていうのがすごい良いことだなって思っています。絶対着替えるシーンがあって、やっぱりファッションの力を本当に信じているアニメという感じがします。
─ 確かに変身って服を着替える、容姿を変えるってことですよね
そうなんです。力を得て、社会参画をする話なんですよね。着替えることによって力を得るんですが、気付きを得ないと変身できないこともありますし。ある日、なりたい自分になっていいみたいな気付きを得るシーンが絶対にあって、そこから力を得るようになるんです。やっぱりああいうのはいいなと思うんですよね。
─ プリキュアの“変身”や装いの力という話を伺っていると、門倉さんが装飾そのものにも関心を持たれていることが伝わってきます。額装をモチーフに描かれている作品もありますよね。そこにも装飾や機能に対する視点があるのでしょうか?
装飾もすごい気になっているので、前々回の個展では装飾だけがテーマの展示でした。効率や機能だけではない、「豊かな余計なもの」が好きなんです。
─ 装飾や“余計なもの”への関心という点では、作品そのものだけでなく、周縁の部分にも意識が向いているように感じました。搬入の際に拝見した、キャンバスの背面いっぱいに書かれたサインもとても印象的でした。
ありがとうございます。岡山で個展をやったときに、絵の裏にサービスでサインを書いていたら、購入された方全員から「それもやってほしい」と言われてしまって(笑)。それならいっそ、真ん中に大きく書いてしまおうと思ったんです。あのサインはクリムトを参考にしています。クリムトのサインって、四角っぽい感じで、すごくいいんですよ。
─ そうだったんですね。展示期間中は見られない部分ですが、その存在も含めて印象的でした。
芸術家はホスピタリティがあったほうがいいと思っているんです。お客さんがどうしたら満足するかは、やっぱり考えていますね。だからかもしれませんが、デザイン出身の人が好きなんです。
─ 本日はありがとうございました。
作品だけでなく、その姿勢も含めて印象に残るお話でした。

歴史や制度、装飾といったテーマを扱いながらも、それらを声高に主張するのではなく、「もの」として提示していく姿勢が印象的だった。用途や意味をいったん手放したかたちは、観る側の感覚に触れ、その受け取り方を静かに委ねているように感じられる。
思考とともに変化を続ける彼の制作が、これからどのような形へと広がっていくのか。その展開を楽しみにしていきたい。
Interviewer: Asuka Watanabe, Atsuya Nagata
Photo: Jun Tsuchiya (gallery installation)
点検/保守/バランス 門倉太久斗 個展
2026.2.13.Fri – 3.8.Sun
-Artist Statement-
古来より形の変わっていない道具に神秘を感じる。
多くの人による改良の積み重ねがあり現在の形状に至った後も、長く使われてきた道具はほとんど奇跡に近い形状を留めている。私は作り手として何か新しいものを生み出したいと願う一方、古くから培われてきた技術と道具に敬意を払い、大切にしていきたいとも思っている。
道具のあり方と同じように、私が(私たちが)なぜこのようであるのかを知っていくにつれ、世界が複雑で歪な形状をしていることを感じざるを得ない。決して洗練された形状ではないが、同時にそれが驚くべきバランスの上に成り立っていている事にも気がつく。さまざまな作用と応答が、多くの人間の地道な努力の積み重ねによって培われてきた。退屈さや痛みに耐えることで保たれているかもしれない「バランス」。そこに神秘はないかもしれないが、私は敬意を感じずにはいられない。
私は別に画期的なアイディアを思いついたりしていない。そういうこともたまには起こるけれど、そんな奇跡が連続して生まれるわけがない。まずは道具を大切にし、足元がどのようになっているのかよく観察すること。日々健やかに過ごし、退屈さや痛みに耐えて、適切に反応していくこと。点検、保守、バランス。この積み重ねの先にこそ良きものが生まれると、最近は信じている。
【開催日時】2026年2月13日(金)- 3月8日(日)
【開館時間】12:00-18:00 (月曜、火曜休館)
【会場】K Art Gallery
*3月8日(日)は16時まで

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